対抗問題と第三者

対抗問題と第三者

対抗問題は民法において非常に重要な事項です。対抗という言葉は、法律上では「相手に対して(その権利を)主張できる」かどうかということです。そして対抗問題と深い関係にあるのが、第三者。日常で使う「第三者」と違い、法律上の第三者には厳密な規定があり、更に同じ「第三者」でも意味が異なる場合があります。ですから、対抗問題では登場人物がが第三者に当たるかどうかを正しく判断する必要があります。ここが厄介なんですね・・・そこで代表的なものを整理してみることにします。

177条の第三者

民法177条の第三者は、最もメジャーな第三者です。

第177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の陶器に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

確かに第三者は登場しますが、どこにもその定義はありません。この第三者は何で決まっているかと言うと、判例です。これも有名ですね。

民法177条のいわゆる第三者とは、当事者もしくはその包括承継人以外の者であって、不動産に関する物権の得喪および変更の登記欠缺を主張する正当の利益を有する者を指称する。

94条2項の第三者

94条は(通謀)虚偽表示についての条文です。

第94条
1.相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2.前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

2項に第三者が登場します。この第三者は虚偽の意思表示(外観)を信じた善意者であり、表意者の帰責性が大きいため、無過失も登記も要求されません。そして94条にも第三者の定義はなく、これも判例で決まっています。

虚偽表示の当事者またはその包括承継人以外の者で、虚偽表示の外形を基礎として、新たな独立の法律上の利害関係を有するに至った者。

94条2項は、1項の「通謀虚偽表示」があったことを要件として適用されます。そして、94条2項の類推適用とは、1項の要件を満たさない類似のケースの場合に適用されます。Aが所有する不動産を、Bが勝手にB名義にした場合などがこれに当たります。(AとBに通謀はない)

96条3項の第三者

第96条
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

96条は詐欺・脅迫による意思表示の取り消しの話です。ご存知の通り、詐欺・脅迫による意思表示は取り消すことができます。(ここ注意です。できる、ということは取り消さない限りは有効であるということです)3項に第三者が登場しましすが、ここは定義がはっきりしています。「善意無過失」です。この条文は民法の改正で、2・3項に変更がありました。3項の第三者には善意に加えて無過失が要求されています。山本先生の『民法大改正完全解説』から引用します。

原権利者に故意責任がないときは、第三者の保護要件を善意無過失にするという改正民法の基本的な考え方に基づく改正です。(『民法大改正完全解説』山本浩司著)

545条1項の第三者

第545条
1.当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

第545条は、解除権の話です。この第三者は、所謂「解除前の第三者」です。そしてこの第三者の権利は登記されている必要があります。登記の要否というと、対抗問題が浮かびますが、この登記は177条のなような対抗要件としての登記ではありません。(そもそもこの話は対抗関係がありません)解除の遡及効によって、無権利者になってしまう第三者の権利保護要件です。