網膜剥離手術で入院&手術の話
網膜剥離という病名を知らない人はいないと思うが、自分がなるとはあまり思わない。ある木曜日に、左眼の瞼が急に腫れて、近所の眼科に行った。コンタクトレンズと白内障が売りの眼科は避けて、実直そうな眼科に行ったら、やけに色々検査する。左眼の腫れの原因は不明で、軟膏と目薬をもらって話は済んだが、問題は腫れていない右眼が「網膜剥離」だという。「手術になると思うけどできる?」と言われて「できない」とは言えない。紹介状を書くからと言って、その場で東京大学医学部附属病院の先生宛に紹介状を作ってくれた。全くもって青天の霹靂である。
その日のうちに電話をして、紹介状があることを伝えると、紹介先の先生は月曜日なら予約がとれるというので、次の月曜日早速朝から病院へ。実はこの病院には馴染みがあった。5年前(令和2年)、顔面神経麻痺の後遺症に対する手術でここへ入院した。12月だったから、中庭にクリスマスツリーが飾ってあった。それから月に1回のペースで1年通院した。この病院はいつも混んでいる。特に初診時は検査が多く、ほぼ丸一日かかる。ただ、若い先生が診た後に、本丸の先生が出てくるといった流石の手厚さで、やはり右眼は網膜剥離だった。
左右とも非常に若い時に一度網膜剥離した跡があり、その時は自然治癒した箇所が、右眼だけ再剥離したのだという。「網膜剥離が自然治癒することってあるんですか?」と聞いたら珍しくないそうだ。「網膜剥離の原因ってあるんですか?」と聞くと「うーーん、網膜が弱いってことかな」だそうだ。
「次の水曜日なら手術できるけど、前日から入院できる?」と言われて「はい」と即答した。丁度月の頭で、仕事的には都合がよかった。月末だったらそうはいかないが、運良くいい日取りだと思った。手術用の検査を本日中に全部やっておきましょう、ということで一通りの検査をして、結果が出る間に食事をとってと言われて地下の食堂で食事をとった。
入院は順調なら3泊4日ということになった。今度の手術は局所麻酔で、私は局所の手術は初めてである。できれば手術は寝ている間に終わって欲しいものだが、まあ仕方ない。年相応の白内障もあるから一緒に手術しますと言われた。
手術の前日入院で、朝は少し早めに出た。外来棟の前にある「焙煎所カフェ」でカフェとチーズケーキを堪能。それから入院手続きの窓口へ。外来の診療が始まる前から、午前中は入院患者のラッシュである。PCを接続したいので、5000円の差額ベット代のある部屋を希望していて、希望通りになった。入院の説明の時にはなかったが、現在は差額ベット代のある病室では無料Wifiが使えるとのこと。
私のケースは、古い剥離箇所の再剥離で剥離の形がちょっと複雑なこともあり、「硝子体茎顕微鏡下離断術」と「網膜復位術(バックリング手術)」の両方+白内障の手術で、普通より手術時間は長くかかると言われた。
実際手術は2時間か2時間半くらいかかったと思う。その間じっとしていることが最も苦痛で、痛みはなかった。ああ、麻酔を打つのは少し痛かったかも。途中でくたびれて息を深く吸ったら「危ない、勝手に動かないで」と叱られた。動きたくなったら「ちょっと動きたい」と伝えればいいわけだ。「表面を縫ったら終わるから」と言われて、眼も縫えるのかと感心した。

苦痛なのは夜だった。術後は、眼の中のガスを使って眼の奥にある剥離箇所をしっかり押さえる必要がある。できるだけうつ伏せ(真下)になるように言われた。有名な体位制限である。これがとても寝ずらい。家でうつ伏せ寝の練習をしてから入院すれば良かった。看護師さんがうつ伏せ寝のセッティングをしてくれて、コツも教えてくれるのだが、寝づらくて睡眠不足になった。
早く朝にならんかなあと夜が苦痛だった。4人部屋なので、なんとなく他の患者さんに気兼ねしてしまうということもある。夜になると微熱が出た(37.5度程度)。術後にはあることだし、看護師さんも何も言わなかったので、気にしなかった。
術後に痛みがあったら、鎮痛剤を出すと言ってもらったが痛みはほぼなかった。大きな問題はなく、無事に予定通り退院。左眼の腫れはとっくに直っていたが、怒涛の2週間であった。ただ、左眼にも自然治癒した剥離箇所がある以上、右眼と同じことが起こらないとはいえない。右眼の網膜剥離を告げられてから、右眼だけで物を見てみると、水平線が波打って見えていた。普段片眼でものを見ることはないから気がつかなかったのだ。反対の眼の補正力は大したものだ。しかし、左眼の瞼が腫れたことで、右眼の異常が発見されたのだから、人生は不思議なものである。時々は片眼でものを見た方がいい。
眼内にガスが残っている間は、眼の中に黒い水たまりがある感じ。この水たまりがだんだん小さくなってくると、ガスが抜けつつあることを実感する。
入院中病棟は21時消灯、6時起床だったので、そこからすっかり朝型に戻せた。これは入院して良かったことの1つである。バカみたいな話だが、短期の入院は旅行に少し似ている。入院も「非日常」で、ちょっとしたリフレッシュにもなってしまう。毎日お客様扱いしてもらえる点も、旅行に少し似ている。
自宅に帰ってからは、人に勧められて購入していたうつ伏せ寝枕で、そこそこ快適に眠れた。こんなやつ。
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どんな眠り方がいいのかは人によると思うが、私にはこれがあっていた。もしまた同じ手術で入院することがあったら、持参したいくらいである。
術後3週間、眼内のガスがほぼ抜けて(まだ少し残っていると思う)、表向き日常に戻ってはいる。右眼の見え方はまだとても違和感があるし、兎に角眼が疲れる。眼精疲労からくる頭痛もある。うつ伏せ姿勢からは解放されているが、目が疲れるのでつい下を向いてしまう。無駄にモニターを見たりすると疲れが酷くなるので「何を見るべきか」考えるようになった。医療保険を再考する気持ちにもなったし、入院して良かったことが、結構ある。入院前、AIエージェントを実務に使い始めていたが(私の職業はデザイナー兼コーダーである)、自身の体力の限界を考えて、本格的に導入すべきだと決意した。こういうことが契機になる場合もある。
定期的に検診には行っているが、まだ完全に剥離箇所が復位しているわけではない。術前に比べれば、かなり良くはなったがまだ離れている箇所があり、裏に水も残っている。画像で見ても2週間前(術後1週間)と変化があるようには見えなかったが、先生曰く「殆ど変わらないように見えるけど、このちょっとの違いが重要」だそうだ。長丁場になりそうだが、先生ははなから承知の上だったようである。
通い慣れた東大病院だが、今までずっと本郷三丁目駅から歩いていたの今回初めて湯島駅ルートにしてみた。なんと、こっちの方が楽じゃん。試してみないとわからない。東大医学部のホームページにのっている「近道」がおすすめだ。有名な「無縁坂」を登ると東大の鉄門に出る。東大鉄門は医学部と附属病院に直結しているため、東京大学医学部の俗称らしい。行きは上り、帰りは下りで、そのまま旧岩崎庭園の入り口もすぐ近く。

近道はこちら。東大病院のホームページには出ていなくて、東京大学医学部消化器内科ページに出ていたのをたまたま見つけた。このルート、登りが嫌でなければすごくいい。
https://gastro.m.u-tokyo.ac.jp/access/